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第1章 食から始める放射能対策
放射性物質を吸着する素材とは
さて、ほとんどの方にとっては、これまでご説明してきたことを実行することでも十分かと思いますが、「これではまだ不安だ、心配だ」という方もおられると思います。
たしかに、今回の福島第一原発の事故は未曾有のことですし、すでに環境の中へ広がってしまった放射性物質が今後拡散し、またそれと並行して生物の体内で濃縮されるということを考えると、その不安ももっともです。
そこでこの本でご紹介したいのが、ゼオライトという鉱石で放射能から身を守るという方法についてです。
ゼオライトは溶岩や火山灰が海水などの水分と触れることでできた、ケイ酸アルミニウムが主体の多孔質鉱石であり、日本語では沸石と呼ばれます。火にかけると中に含まれる水分が湯気を立て沸騰しているように見えることからその名がつきました。
このゼオライトには水質浄化や土地改良剤、消臭などさまざまな働きがあることから、身近なところでは浄水器や猫のトイレに使う猫砂などに活用されています。これまでその名を聞いたことがない方でも、どこかで何らかの形でその恩恵を受けているのではないでしょうか。
そして、このゼオライトは放射性物質を吸着する素材としてもよく知られています。
チェルノブイリの原発事故のときには、大量に放出されたセシウム137やストロンチウム90といった放射性物質を吸着するために40万トンものゼオライトが散布されました。これは放射能の専門家たちの間で、ゼオライトがこれらの放射性物質を吸着することが周知の事実とされていたからです。
また、アメリカでは核廃棄物質の貯蔵場所として、ゼオライトを含む岩盤で構成されているユッカ山(Yucca Mountain)が使用されています。この貯蔵庫には7万5000トンもの核廃棄物が貯蔵されていますが、ゼオライトの放射性物質吸着効果により外部環境への放射能漏れはありません。
今回の東日本大震災による福島第一原発の汚染水の処理についても、専門家の間でゼオライトによる放射性物質の吸着処理が提案されています。いくつかのテレビ番組で解説されていたのでご覧になった方もいるでしょう。
日本原子力学会の研究チームによる発表では、放射性セシウムを含む海水100ミリリットルに10グラムのゼオライトを入れたところ、5時間で約9割のセシウムが吸着されたとのことであり、ほかの放射性物質についても同様の作用が期待できます。
ただし、汚染水に海水が含まれること、そして、海水にゼオライトを用いる場合には放射性物質の吸着能力が低下するということを考えると、本格的な汚染処理には塩分処理をしてからゼオライトを使用することになるかもしれません。とはいえ、そのような提案がなされているという事実は重要です。
つまり、科学者たちの間では、ゼオライトによる放射性物質の吸着は、議論の余地のない事実として認識されているということになるからです。
ゼオライト生命体応用研究会(以下、同研究会とも)のメンバーの一人である七沢賢治氏は、ゼオライトの有用性について次のように述べています。
「炭素はその無数の細孔に不純物を吸着することで体内を浄化します。これはすでにご説明した通り(・24ページ)です。そのような小さな孔が無数にあるということは表面積が大きいということですが、ゼオライトは炭素の約60倍もの表面積があり、1グラムのゼオライトの表面積は350平方メートルにも達します。なお、孔の大きさは0・4〜1・3ナノメートル(1ナノメートル=10億分の1メートル)です。
その小さな孔に放射性物質を吸着させて体外へ排出することを考えれば、この表面積の大きさがそのまま排出能力に反映されると考えていいでしょう。つまり、ゼオライトは炭素の何十倍もの放射性物質排出能力があるといえるのです」(七沢氏)
ゼオライトがどういう物質であるのかという点については、また後で詳しく解説します。とりあえずここでは、炭素の60倍もの表面積を持つ多孔質の鉱石だということを理解しておいてください。