●
第2章 被曝を防ぐために今、始められること
今後問題になるのは内部被曝
さて、被曝には大きく分けて体外からの「外部被曝」と、体内からの「内部被曝」があります。
まず前者に関していうと、事故を起こしている原発のすぐ近くにいる場合を除き、原子炉から発している放射線を直接受けることはありえないため、通常は空中に飛散した放射性物質が服や体に付着して、そこで発している放射線に被曝するという形になります。
この外部被曝に関しては、各地の空間線量(大気中の放射線量)を見ればその量をおおよそ推測できます。
最初の地震から1か月後の4月11日のデータでは、福島県(双葉郡)は2・2マイクロシーベルト/時となっており、この放射線量が1年間続くとするとトータルでは約19ミリシーベルトの被曝となります。これは、ICRPが定める一般人の被曝限度(年間1ミリシーベルト)を大きく超える数値です。
ただし、低線量の外部被曝にはさほどの問題はありません。というのは、アルファ線やベータ線は透過力が弱いため、放射性物質が直接皮膚に付着しない限り、その影響はほとんど無視できるレベルとなるからです(・43ページの表)。
また、透過力の強いX線やガンマ線は体が受けるダメージも比較的小さくなります。体を素通りするようなイメージでとらえるとダメージが小さい理由がわかると思います。そして、中性子線は原発作業者でもなければ受けることのない放射線です。
したがって外部被曝に限っていえば、年間19ミリシーベルトの被曝でもさほど心配する必要はない、ということになります。
比較として同日の東京(新宿区)における空間線量を見てみると、0・083マイクロシーベルト/時となっています。この放射線量が1年間続くとするとトータルでは約0・727ミリシーベルトの被曝となりますが、これは東京における通常の空間線量の約1・1倍です。それを考えると、東京においては外部被曝の影響を気にする必要はまったくないといえるでしょう(ただし、局地的に放射線量の高いところ=ホットスポットが存在することがわかってきましたので、お近くの放射線量はこまめに調べるようにしましょう)。
そうなると、今後問題となってくるのは内部被曝です。
内部被曝とは放射性物質を吸い込んだり、飲食物を介して摂り込んだり、傷口から入ったりすることで、体内から放射線に被曝するケースを指します。その場合、その放射性物質が体内にとどまっている間はずっと放射線を出し続けるので、空間線量に関係なく被曝が進行していくことになります。
その被曝が終わるのは放射性物質が崩壊しきって放射線をほとんど出さなくなったときか、あるいは体内から放射性物質が排出されきったときですが、そう簡単には体内の放射性物質の量は減ってくれません。
ヨウ素131でいうと、その物理学的半減期(・41ページ)は8・1日ですから、約2か月後の56日後には128分の1になります。しかし、セシウム137の半減期は30・1年なので、2か月ぐらいではその量はほとんど減らないのです。
ただ実際には、体に入った放射性物質の一部は少しずつ排出されていくため、物理学的半減期にかかわらず、体内における影響は減少していくことになります。そのように、体が放射性物質を排出して半減させるのに要する時間を「生物学的半減期」といいます。
セシウム137の場合、原子核崩壊によってその量が減っていく物理学的半減期は30・1年ですが、生物学的半減期は70日程度とされています。それくらいの期間で半分は体外へ排出されるということです。
さらに、この生物学的半減期と物理学的半減期の両方を合わせて実質的な半減期を算出したものが「実効半減期」と呼ばれるものです。セシウム137の場合、実効半減期は生物学的半減期と同じく70日とされています。つまり、2か月強で半分となり、次の2か月強で4分の1となり、さらに次の2か月強で8分の1になるのです。
そのように、ある程度まで放射性物質は自然に排出されるのですが、体内にあるうちは放射線による被曝を避けることはできません。また、放射性物質が継続的に体内へ入ってくる場合には内部被曝の線量は増えていくことになります。
したがって、内部被曝をいかに避けるかということが、日本に生きる私たちにとってこれからの重要な課題となってくるでしょう。