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第4章 ゼオライトをさらに深く理解する
3.ゼオライトによる水の放射性物質除去
高濃度汚染水を浄化できることは専門家の間では有名
放射能汚染水の中にゼオライトを投入することで、水に含まれる放射性物質を吸着することができます。
スイスのベルン大学で1986年に発表された『チェルノブイリの悲劇』という論文には次のような記述があります。
携帯用の水をドニエプル川から採取するに当たり、泥状のクリノプチロライト(ゼオライトの一種)とアルミニウムを通過させた後、クリノプチロライトフィルターを通過させると、劇的に放射性活性を減少させることができた。
ゼオライトが放射能汚染水を浄化できることは専門家の間では広く知られています。
福島第一原発の放射能汚染水に関して行った日本原子力学会の実験では、天然ゼオライト10グラムを、放射性セシウムを溶かした海水100ミリリットルに入れて混ぜると、5時間で約9割のセシウムが吸着されることが確認されており、東京電力によっても実地に検証されています。
東京電力では、福島第一原発の3、4号機の取水口付近に投入したゼオライトの土のうのうち二袋を2日後に引き上げて調べたところ、土のうの放射線量は0・65ミリシーベルト/時であり、周辺よりも0・1ミリシーベルト高いことが確認され、ここでもゼオライトがセシウムを吸着したことが証明されました。
また、日本原子力学会がさまざまな種類のゼオライトについて行った実験では、ストロンチウムに関しても10パーセントの濃度の海水において最大98パーセントの吸着率が確認されており、汚染水の浄化において有望な素材であることが明確に示されています。
海水ではなく真水であれば放射性物質はさらに効率よく吸着できます。
というのも、海水に含まれるナトリウムイオンなど放射性物質以外の陽イオンが多い環境では、放射性物質吸着の働きが低下してしまうからです。この章の冒頭で紹介した東北大学での実験でも、ナトリウムイオンを多く含む水溶液中ではゼオライトの放射性物質吸着能力が低下することがわかっています。
しかしこれを逆に考えれば、水道水の処理については、海水の処理よりもゼオライトの放射性物質吸着の作用はより良好に発揮されるといえるでしょう。
もう一点触れておかなければならない留意点は、ゼオライトの放射性物質吸着作用には一定の限度があるということです。
どれくらいの量の陽イオンを交換できるのかということを示す「陽イオン交換容量」という指標があり、それはゼオライトの種類によって異なりますが、セシウムの場合、陽イオン交換容量の10パーセントの量を超えると吸着の効率が悪くなることがわかっています。これも、冒頭の東北大学の実験で明らかになったことです。
水道水(飲用水)の浄化にはセラミックボールが有効
ただ、水道水の処理に関していえば、放射性物質の濃度は微量ですから吸着の効率が悪くなることはなく、ほぼ100パーセント吸着できると考えて差し支えありません。
飲み水を介した内部被曝を防ぐには、水にゼオライトの水溶液を添加して放射性物質をゼオライトの骨格構造内へ取り込み、体内への吸収を防ぐというやり方もあります。
しかしその場合、消化管内を通過している間は放射線を内部から受けてしまうことになるため、やはり、ゼオライトによって事前に水から放射性物質を除去することが最善の方法だといえるでしょう。
水の放射性物質を浄化する場合には、ゼオライトをセラミックの粒状に焼成したものが市販されているので(セラミックボールといいます)、それを活用することになります。水を浄化すると称するセラミックボールは多種多様なものが出回っているようですが、必ずゼオライトを原料にしたものでなければなりません。
水1リットルにつき100グラムのセラミックボールを入れ、容器の中で約8時間置く……というのが使用法の一例です。いったん一般の浄水器を通して塩素を除去した水であれば1時間でも十分でしょう。放射性物質はセラミックボールに吸着されて水の中にはほとんど残らないので安心して飲むことができます。
なお、セラミックボールに吸着した放射性物質が気になる方もいると思います。その放射性物質は完全に崩壊しきるまでそこで放射線を発し続けるからです。
原発の高濃度汚染水を処理したゼオライトの場合、線量が高いので放射性廃棄物と同様の扱いをする必要がありますが、一般の方が水道水の浄化に使う場合には、セラミックボールに吸着された放射性物質からの線量は少ないので、まったく無視できるレベルです。
使用後のセラミックボールを廃棄する場合にも、そこに吸着された放射性物質の量は微々たるものですから、通常の家庭ゴミとして捨てることについて特段の問題はないといえるでしょう。