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第4章 ゼオライトをさらに深く理解する
8.食料生産へのゼオライトの応用
ゼオライトによる土壌の浄化
今回の福島第一原発の事故について今後心配されるのは、環境に放出された大量の放射性物質が食料生産へ与える影響です。特に福島とその近県の農業・畜産関係者にとってこれは切実な問題といえるでしょう。
広範囲に飛散した放射性物質の中にはセシウムなど半減期が長いものが含まれるため、これから大規模な土壌の入れ替えが必要になってくると思われますが、早いうちに地表へゼオライト粉末(あるいは顆粒)を散布しておけば、放射性物質が雨水に運ばれて地面の深くに浸透することを避けられる可能性が高いです。
また、土壌汚染が深刻でない地域であれば、地表の放射性物質をゼオライトで吸着すると、根からの放射性物質の吸収を防ぐことにもなるでしょう。
ゼオライトによる土壌改良はこれまでも一般的に行われており、農家にとっても導入しやすい放射能対策だといえます。
同研究会会長の佐藤氏は、ゼオライトの土壌改良剤を農家に広めてきた一人です。
「戦後、食糧難の時代に増産を目的として農薬をたくさん使った時期があります。しかし、次第に農薬の害が問題になってきたので、土壌を改良することを目的として国は1984年に『地力増進法』という法律を新たに定め、土壌改良剤として七品目が法定品となりました。その一つがゼオライトです。ゼオライトは、カドミウムなどの有害物質を土壌から吸着して、農作物がそれらを吸収するのを阻害します」(佐藤氏)
そのゼオライトが今度は土壌から放射性物質を除去するために活躍するのです。ゼオライトの散布はチェルノブイリ原発事故のときにも行われており、土壌における放射性物質の吸着作用は専門家の間では常識として認識されています。
農作物の生産における放射性物質除去のために、どれくらいの量をどのように散布するかは今後の検討課題ですが、これまでの土壌改良剤としての使用経験から、その安全性について証明されているのは間違いありません。
畜産における放射能対策
本章の前半で触れたように、ゼオライトを羊や牛の飼料に混ぜたところ、その肉や乳に含まれる放射性物質が減ったという研究結果があります。これは畜産農家には朗報でしょう。たとえば、現時点で牛乳の放射能が暫定基準値を超えていたとしても、ゼオライトを混ぜた飼料を食べさせることで基準値以下に低減される可能性があるからです。
また、ゼオライトは動物の健康状態を改善するため、人の場合と同じく、放射能の害を受けにくくすると考えられています。
同研究会会長の佐藤氏はゼオライトの畜産への応用についてこう述べています。
「ある養豚場で飼料に2パーセントの量のゼオライトを混ぜて与えたところ、それまで5000万円分の抗生物質を使っていたものが、一切不要となりました」(佐藤氏)
さらに、『農業と工業における天然ゼオライトの使用』(F.A.MUMPTON作成)という論文には以下のような記述もあります。
天然ゼオライトおよび斜プチロル沸石(クリノプチロライト)を産業動物の飼料に添加することで、アフラトキシンなどの有毒なカビ毒を吸着させることができるため、豚、羊、そして鶏の健康を維持することができる。ゼオライトを投与されたグループは、体重増加、屎尿悪臭の減少、下痢などの消化器疾患の減少など動物の病気を予防し成長を促した。
これらのことから、ゼオライトによって家畜の健康状態を保つことで、被曝による影響を最小限に抑えられる可能性は十分にあるといえるでしょう。
現在、私たちの研究会では、福島県において乳牛にゼオライトを与えて、牛乳の放射性物質の変化を見る調査を進めています。この本の出版には間に合いませんが、今後、研究会のウェブサイトやニュースリリース、書籍などを通じて結果を報告する予定です。